出来ることなら、そのパーティーの前に出ていきたい。
今は笑顔でシルヴィアとジルベールの婚約を祝える自信がなかった。

2人には幸せになってほしい。それは嘘偽りのないリサの本心だ。

しかしそれをすぐに祝福出来るかといえば別問題だった。心を落ち着かせる時間が必要で、それは2人の側にいては叶わないことである。

乱れた髪を耳にかけながら答えたリサを見て、ジルベールはハッとして彼女の右手を取る。

その手に自分が贈った指輪がない。朝は確かに目にしたはずの指輪を、彼女は宝物だと言ってくれたはずだ。

からっぽの薬指を見て愕然とするジルベールに、リサはポケットの中にしまってある指輪を思う。

それは高価ではないただのおもちゃの指輪。リサにとって、初めて好きな人から貰った大切な宝物。

未練を断ち切るためには返すなり捨てるなりするべきなのだろう。しかしリサには出来なかった。

この世界でリサ=レスピリアとして生きていこう決意できたのは、ジルベールの存在があればこそだった。
絵本の世界に転生しただなんて夢だと思っていた。それを現実だと知っても取り乱さずに受け入れられたのは、リサとしての記憶があったこと以上に、彼が与えてくれた言葉に支えられたから。

一緒に来いと言ってくれたこと。自分が居場所になると言ってくれたこと。
絵本のストーリーに導かれるまま、みんなが幸せになれると信じて疑わなかった。