おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


「もちろん。テオだけじゃなく、みんなも普通にお友達を呼ぶみたいに呼んでいいんだよ」
「でも、リサ様は偉い人でしょう?」
「ううん、なんにも偉くない。私もみんなと一緒で孤児院出身だよ」
「えーっ!ほんとうに?!王宮に住んでるのに?」
「本当に。だから掃除だって洗濯だって得意だよ。大好きな人と結婚して住む場所が変わっただけ」

手を引かれるまま庭のベンチに座って他愛ないお喋りをしていると、騒いでいる子供たちの声で王太子妃が来たと知った司祭や孤児院の教師たちが庭に出てくる。

この3年の間、毎月様子を見に来る王太子妃に最初は戸惑った彼らも、今は同じ子供たちを見守る同志として歓迎してくれていた。

「リサ様。ようこそお越しくださいました」
「司祭様、先生、こんにちは」

形式張らない簡単な挨拶だけ済ませて差し入れの焼き菓子を渡すと、子供達は「頂いた焼き菓子を食べましょう」と言った司祭に連れられて、孤児院の中に入っていく。

それを見送り、リサはテオドールに手を引かれてバラ園へと足を踏み入れた。

そこには開花間近の真っ白なバラの蕾が並んでいた。
バラの生育はとても難しい。虫が付きやすく水やりも気温や湿度との兼ね合いを考えながらしなくてはならない。冬には剪定する必要もある。

それらを孤児院の子供たちで協力しながらすることで、楽しんで学びながらコミュニケーションを取ってくれたらいいとバラ園の管理を任せている。

そんなリサの期待に、ここの子供たちは見事に応えてくれた。
きっと次に来る時には大輪の花を見られそうだとリサはテオドールに向けて微笑んだ。