「リサが初めてだった。私に何か一緒にやってみるかと聞いてくれたのは」

シルヴィアは当時を思い出し、懐かしそうに目を細める。

「父はもちろん、この城のみんなが私を大切にしてくれたし、愛されているとわかってる。でも、公爵家の姫である私に何か『一緒にやってみますか?』と聞いてくる人はいなかった」

当然だろう。姫が煩わしくないように使用人がいるのだ。
その美しい手に傷ひとつ付かないよう、着替えですら自分ですることはない。

「そんな私にリサは土仕事を一緒にやってみるかと誘ってくれた」
「すみません、何もわからぬ子供だったので」
「やだ。嬉しかったに決まってるでしょ?一緒に住みだしてからも、しばらくリサは私に心を開いてはくれなかったけど。あの辺りからかしら?リサを近しく感じて、妹のように愛しくなっていったの」

花が綻ぶように微笑むシルヴィアに見惚れてしまう。

「あなたが城に来てから、ずっと私の側にいてくれた。本当に感謝してるわ。だからね、もうそろそろ自分の幸せを考えてもいいの」
「……え?」
「リサ、私結婚するわ」


ひゅっ、と自分の息を呑む音が耳に付く。

―――結婚。シルヴィアが結婚すると言った。
相手は誰か聞かずとも明白だった。ラヴァンディエ王国の王子に決まっている。