桜side
「失礼します。柊先生はいらっしゃいますか?」
春の花もすっかり落ち切り夏の訪れを感じ始めた頃。
私、園崎 桜はここ、王華高校へと転入する。
そして今日はその初日。
気分はどうかって?
それは勿論……最高過ぎてニヤけが止まりません。
一人で口を緩めていると、奥の方の席で作業していた私の新しい担任、柊 秋人先生が気だるげに歩いて来た。
グレーの長い髪を後ろで一つに纏め、羽織った白衣のポケットに両手を突っ込んでいる。
「うぃーす桜。初日から遅刻とは度胸あるなテメェ」
「えへへ、許してくださいよ。
和葉くんに会えると思ったら緊張しちゃって。髪型とかメイクとか全然決まらなかったんだもん」
「髪型?メイク?いつもと変わらねえじゃねえか」
「そうなの!色々考えた結果、ありのままの自分を好きになって貰おうと思って!」
クルッと一度ターンすると胸辺りまである栗色の髪がやわらかく揺れた。
毛先の緩いウェーブは癖毛で、崩れることは無い。
「はあ。ま、たしかにお前は下手に化粧なんかしねえ方がいいな。
ただでさえ派手な顔してんだし」
「派手な顔じゃないし!美人って言ってよ!」
「自分で言うか」
「だって事実だもん」
くだらない会話を繰り広げながらどちらともなく歩き出した。
既に授業は始まっているけれど、すれ違う生徒もちらほら。
「つうかお前、よくこんな所転校して来れたな。一応お嬢様だろ?」
「お母様もお父様も、とても優しい方だから。お願いしたら直ぐに許してくれたよ」
「へえ。そりゃよかった」
王華高校はあまり生徒の素行が良くないことで知られている。
男子生徒の殆どが暴走族に入っているし、当然のことと言えば当然のことなんだけど。