独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

「あの……今日は、父たちと夕食をと思っているのですが、出かけてきてもよろしいでしょうか」

おずおずと尋ねられ、俺は一も二もなく頷いた。

「ああ、もちろんだ。楽しんでおいで」

俺は残念ながら、接待の約束がある。まあ、俺がいない方が初子も羽を伸ばせるだろう。卑屈になっているわけではない。あまりせせこましいことを言いたくないだけだ。

「親父さんには、改めて結婚のご挨拶をしなければならないから、滞在中にどこかお時間を頂戴したいな。セッティングしてくれるか」
「はい、承知しました」

初子は緩む頬を抑えられないといった様子だ。よほど、ふたりに会えるのが楽しみなのだろう。

なんとなく面白くない。初子が淹れてくれた紅茶を飲みながらそんなことを思う。
たとえば、俺と初子が契約期間を終え、離婚を選んだとして、初子は俺を思いだしこんなふうに笑ってはくれない気がする。初子の中で明確に順位はなくとも、どう考えても俺が一番ということはなさそうだ。仮の夫なんてそんなものだろうか。

せせこましいことを言いたくないと思いつつ、なかなか心が狭くてまいってしまう。

「連さん、越野支店長と父が到着したようです」

初子がデスクのスマホを確認して顔をあげた。

「そうか、早いな。待機用にミーティングルームを空けてある。初子、案内してきていいぞ」
「本当ですか? ありがとうございます!」

初子はぱっと表情を明るくし、頭を下げた。それからいそいそと支店長室を出て行った。