六月の後半から七月の頭、俺は支店長業務の傍ら、叔父の地方視察に同行する日々が続いた。恭以外にも、文治の後継に噂されている人間は数人いる。文治が今まで一族経営であったことが防波堤なだけで、俺に問題があればすぐにでも廃嫡を唱えられる。
母体が大きくなれば、それだけ様々なことを考える人間が増える。文治の後継問題は、文治の今後の安定のためにも俺が立つのが一番いい。それはわかっているのだ。
ともかく、地方支店へ熱心に視察して回るのは、俺の顔見せでもあり、叔父自身の権威の主張でもある。大事な仕事だ。
それに俺も地方では『女好きのチャラついた男』という噂があるらしいので、妻もいる落ち着いた常務というアピールをしておくべきなのだろう。
初子と入籍してもう少しでふた月になる。しばらく家を留守がちにしている。初子にはその方が気楽だろうか。
出張にでかけてしまえば、業務以外で連絡を取り合うこともない。せめてもと地方のお土産を買って帰ることにしている。受け取る初子は真顔なので、それを喜んでいるかもよくわからない。
しかし、饅頭でも郷土料理でもお土産は必ず綺麗に消費されているので、嫌ではないようだ。律儀なだけだろうか。
そんなわけで、俺と妻は今ひとつ距離を縮められないものの、さほど悪い関係ではないまま、新婚二ヶ月を迎えようとしていた。



