独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

「俺は文護院家に婿入りするわけではない。何より、今の仕事が好きでやっているんだ。文治のトップになりたいなんて思ってもいないさ」
「恭にその気があるなら、俺に遠慮せず花田専務たちを頼ればいい。頭取の座を競ったからといって、恭との信頼が壊れるとは思わないぞ」

立ち止まった恭がこちらを見る。怒った顔をしている。

「文治の未来の頭取はおまえだ、連」

恭はそう言ってくれるが、俺の中に消せない劣等感がある。そいつがささやく。恭に譲ってしまった方がいいんじゃないか。能力的に、恭の方が優れたトップになれるんじゃないか。

「俺は、花田専務たちに担がれる気はない。どうせ、やつらは俺を傀儡にしたいだけさ。連の人柄や物の見方こそが文治の後継に相応しい」

人柄、午前中に初子に同じことを言われたな、とふと思う。恭が俺を見つめ、真剣な口調で言った。

「俺はおまえを支える位置にいるよ」
「ありがとう。では、外野が騒がしくならないように、俺はふさわしいリーダーシップを取って、早く立場を確立しないとな」
「ああ、来年度まで後継者指名を待つ必要はないんじゃないか? 本店営業部は数字を出しているし、おまえが妻を迎えた話も周知のことだ」

俺は笑みを返し、胸の内のもやついた感情を抑え込んだ。

「さて、何を食べようか」

東京駅近くのホテル内、たまに行く洋食の店でランチをと思ったら、撫子から恭のスマホに連絡が入る。

「撫子がランチに参加したいそうだがいいか?」
「ああ、いいぞ。相変わらずべったりだな」
「可愛いだろう? うちの妻」

恭が本当に撫子を大事に想ってくれていることは伝わる。兄としては嬉しい限りだ。