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父が行員を勤める文治銀行に、大学卒業と同時に入行した。配属は地元で一番大きな仙台支店。それから五年、市内の別の支店で働く父、市内で美容師をする妹の美雪(みゆき)と三人、それぞれ日々を懸命に生きてきた。
私たち家族に“母”はなく、だからこそ父と姉妹の絆は強かったように思う。

周囲の人々にも恵まれた。仙台支店の越野(こしの)支店長は、父子家庭である我が家を出会った当初から気遣ってくれた。私が就職試験をパスし、行員になったときは、幼い頃から見守ってくれた父の同僚たちもこぞって祝ってくれた。

住まいの近所の人たちもまた、家族のような存在だ。夕飯に呼んでくれたり、学校の行事に来てくれたり。父ができないことは近所の人たちが手伝ってくれた。かつて大きな地震があったときも、父と連絡がつかない私と妹を近所の雑貨屋のご夫婦が保護して、一緒に避難してくれた。

小学生のときに越してきたこの土地が私は大好きだった。
以前の土地では少々困難が多かった分、この土地の温かさと優しさに包まれ、私と妹は健やかに成長したように思う。このままずっとここで、家族三人身を寄せ合って生きていけるものだと思っていた。

そんな私に転機が訪れたのがこの春だった。