掃除機はかけ終わった。あとは窓を拭いて、お風呂場の掃除をしたい。
すると、玄関のインターホンが鳴る。これは、一階エントランスからではない。ドア前のチャイムだ。誰かはわかっているが、一応出る。

『初子、ただいま。入れてくれるか?』
「お、おかえりなさいませ」

元気いっぱいに帰ってきたのは連さんだ。連さんは平日夜や休日の午後、私の部屋を訪ねてくる。室内の内扉ではなく、一応玄関から客としてやってくるのだ。なにかしらの手土産を持って。
ドアを開けると、スポーツバッグを手にしたジーンズ姿の連さん。ジムの帰りだろう。私の手にケーキの小箱を押し付けて笑った。

「洋ナシのタルトだ。嫌いじゃないか?」
「ありがとうございます。好きです」
「それはよかった。俺はフルーツ自体あまり食べないが、タルトにするとなんでも好きだな」

そんなことを言いながらどんどん室内に上がってくる。最近はいつものことなので、私も当たり前のように紅茶を淹れる準備を始めてしまう。お湯を沸かして、連さんが好きなフォートナム&メイソンの茶葉をティーポットに準備する。ポットやソーサーは連さんがプレゼントしてくれた。自分も使うものだから、と言って。