「礼と言っちゃなんだが、プレゼントだ」

花束を渡して喜ばない女はいない……はずだった。
しかし、初子はまたしても困ったような顔になった。眉をかすかに寄せ、視線をさまよわせている初子。プレゼントははずしてしまっただろうか。

「花は嫌いか? マカロン……アレルギーはなかったはずだよな」

思わず間の抜けたことを訪ねながら覗き込む。なにしろ、こんなに何をしても響かない女性に会ったことがないのだ。撫子だって、花をやれば素直に喜ぶというのに。

「あの、連さん、私などにこのようなご配慮は不要です。私はあくまであなたの部下であり、文治の行員です」
「今日、撫子に付き合ったのは業務外だろう」
「いえ、私生活もまた勤務の一環と思って生活しております。文護院家の皆様のご要請にはお応えして当然、まして御礼の品など頂戴できません」

真面目といえば真面目だが、大きく壁を立てられたものだな、とつい嘆息してしまった。正直にいえば面白くない。

「それはこの先、俺が妻に贈り物をしちゃいけないということか?」
「私は部下です。もちろん、夜会にお伴する際、身なりを整えなければならないなどあるかと思いますが、そういった時は相談してほしいと撫子さんに言われておりますので」

支店長の妻として相応しい身なりは撫子が用意するというわけか。よほど頼りにされていない。というか、撫子によくよく注意した方がよさそうだ。

「初子、おまえの上司は俺だ。そしておまえの夫も俺」
「はい」
「夫は妻にプレゼントをするものだ。パーティーに出席するとき、妻を美しく装わせるのも夫の役目だ。義妹の仕事じゃない」