「いや、よくやっていると思うぞ。都内の道は慣れだ。首都高なんか、不安なときは俺が引き受けるから言えよ」
「とんでもないです。連さんに運転はさせられません」
「俺、得意だぞ」
「いいえ。私の仕事ですので。もし、社用車を一台お借りできれば、休日に練習したく思います」

私の申し出に、連さんは楽しそうに表情を輝かせた。

「それはいいな。ドライブなら俺も一緒に行こう」

ドライブなんて言っていない。そもそも、この人は、土日もパーティーやゴルフ、場合によっては出社して業務という多忙さだ。私の運転練習に付き合わせるわけにはいかない。

「練習ですので、私ひとりで充分です」
「そう冷たいことを言うなよ。梢の慣れない運転にドキドキしたいんだから」

意地悪な冗談を言って、私の表情を渋くさせるのは、この人なりの親愛のようだ。地方から転勤してきた部下と、円滑な関係でいたいと思っているのだろう。

「車はいつでも使え。総務に話は通しておく」
「はい、ありがとうございます」

これで話が終わりかと思ったら、まだ雑談は続くようだ。デスクに戻りかけた私の背中に声がかかる。

「そうだ、おまえの住まいの件だ。聞いたが、かなりオンボロなアパートだそうじゃないか。セキュリティ的に大丈夫なのか?」