独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

「仕方ないさ。撫子のドレス試着に俺の新妻が駆り出されてしまったんだから」

そう、今日は撫子のウエディングドレスの試着でこのサロンにやってきている。
本来は撫子と恭だけで充分なのだが、同性の目がほしいと撫子が初子を連れ出したのだ。妹の我儘に付き合わせている格好なので、放っておくわけにもいかず、仕方なく俺も出かけてきたというわけだ。初子の立場的に契約外のこととはいえ断りづらいだろう。

なお、俺と初子の結婚式は現在調整中だ。本来アピールが目的なので早く執り行うべきなのだが、撫子の式が八月に予定され、それ以降だと年内は俺と叔父の日程的に厳しい。
来年以降に延ばすとなると今度は微妙。なにしろ、契約結婚期間が終われば初子とは離婚もあり得るのだから。

「あらためまして、結婚おめでとう、連」
「ありがとう。妹夫妻より早い入籍になってしまったよ」
「俺と撫子の入籍は、もとよりおまえの後がいいだろうとふたりで話していたからね。問題ないよ。結婚式はお先に譲ってもらった」
「文護院一族のイベントになるから、盛大ですまないな。恭はささやかな式の方が好みだろう」
「仕事の一環と思えば、問題ないさ。撫子は、派手な式の方が好きだろうしな」

恭はこちらの事情をあらかた知っている。俺の結婚理由も、文治内部の動きも。
恭は非常に優秀な男だ。現在は文治銀行本部市場部門でトレーダーとして働いているが、親は外務省の事務次官。本人も官僚になれる能力がありながら、うちの銀行に就職してきた変わり種だ。