独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

「悪かった。俺もまだまだだな」

引いた方がいい。経験のない女性に無理強いはできないし、親しくなるのが目的の行為が溝にしかならないならすべきではない。

「おまえも知っての通り、女性にはウケがいいんだ。拒まれたことがなかったから、傲慢になっていたようだ。いや、俺から誘うこともほとんどないんだが」

あっけらかんと響くように笑って言う。なぜなら、初子は真っ赤になりながらも冷や汗をかかんばかりに狼狽している。きっと、俺に恥を欠かせたと思っているのだろう。気にしていないとアピールしてやらねばならない。

「同じ気持ちで、誘ってしまった。すまない」
「いえ……、申し訳ありません。ご期待に添えず……」

しかし、このまま完全に引き下がってしまうと、この先初子とは永遠に同じ距離だろう。俺としては、一時的にしろ恒久的にしろ、あまり肩の凝る関係は嫌だ。

「初子の気持ちはわかった。しかし、俺たちは夫婦だ。一緒に過ごすうち、気持ちが変わることもある」
「え……は?」
「また機会を見て誘うさ。今度はもう少し紳士的に。キスも許可制にしような」

初子は俺の言うことを整理しかねているのか、混乱しきった様子で、返す言葉を探している。それでも、部下らしく最後は「はい」と答えた。

紅茶を飲むと、初子は真っ赤な顔のまま靴を片手に内扉から自室に戻っていった。
俺は少々残念な気持ちと、面白いおもちゃを手に入れたようなわくわくした気持ちで、その背中を見送った。思いのほか、俺の妻は可愛いじゃないか。
しかし、距離の縮め方については、再考しなければなるまい。