「私はお受けするつもりです」
「……おまえな、叔父に心酔してるっぽいのは感じてたけど、あんまり滅私奉公しちゃいかんぞ。自分を持て、自分を」

今度は学校の先生みたいな言い方をする。ちょこちょこ面白い人ではあるけれど、この茶化した言い方は、気遣いの一種だろう。
連さんが人間性の優れた人物なのは、一緒に働けばわかる。だからこそ、私も決めたのだ。

「連さんがご不快でなければ、お傍に侍ることをお許しください」
「お傍に侍る……おまえ、またなんつう言い方を」

連さんは口の端をひくつかせて笑った。

「俺はまったく問題ない。梢は小動物か小鳥みたいに可愛い。少々無口で、真面目過ぎるが、俺の話を熱心に聞いてくれるしな。毎日顔を合わせても飽きない」

これは褒められているのかどうなのかと逡巡してしまう。反応に困る。

「俺たち、いい夫婦になれると思うが、頼んでもいいか?」
「はい」

誰かの妻になる想像なんてしたことがなかった。私はそういうものとは無縁で生きていくのだと、幼い頃から思っていた。父と妹、周囲の人を大事に生きていくのがすべて。

そんな私に、大きな仕事が与えられた。それが、私たちを助けてくれた文治銀行の未来のためなら、喜んで取り組もう。

こうして、私は文護院連の直属の部下から、書類上の妻となったのだった。