妙な高揚感があった。
思っていたのとは違ったけれど、私はやはり必要とされてここに呼ばれたのだ。

ただ、連さんがこのことを知りながら黙っていたことを考えると、本店営業部に戻る足は重くなる。自ら、私に説明しなかったということは、実際のところどう思っているのだろう。あまり乗り気ではないのだろうか。普通に考えたら面白くないに違いない。いくら表向きとはいえ、結婚相手なのだ。それが私のような地味で、彼曰く燕の雛に似ている部下では。

支店長室に戻ると、彼はデスクに着いて仕事中の様子だ。

「お帰り、梢。こっちおいで」
「はい」

歩みよった私に差し出された用紙は婚姻届けだ。さすがに面食らった。今さっき話を聞いたばかりだ。

「連さん……」
「叔父と妹から話があったんだろう? 面倒事に巻き込んですまん」

連さんは苦笑いしている。想像したような不快な面持ちではない。

「まあ、俺としては何が何でも頭取になりたいわけじゃないが、俺以外を立てるとなると、文治も少々荒れる。内輪揉めになるくらいなら、俺が後継に立つのが一番いいだろうな。俺の素行の火消しで結婚なんだから、梢には迷惑をかけると思ってるよ。結婚の条件は聞いた?」