独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

五月の朝はいいお天気だった。
私はアパートの部屋で起きだし、出社の仕度を始める。連さんにオンボロと言われたこのアパートも、私には初めてのひとり暮らしのお城。ずっと家族三人身を寄せ合って暮らしてきたので、父と妹と離れてひとり朝食を取るのも朝のニュースを見るのもまだ寂しい。だけど、私も二十六、いい加減自立しなければならない。上京はいい機会だったのだ。

そんなことを考えながら、ごはんに故郷から持ち込んだお漬物をのせて食べる。市販のものを何パックも買ってきたのに、もうなくなりそう。妹の美雪に頼んで送ってもらおう。

黒い肩までの髪をひとまとめにして、薄くメイクをする。支店長秘書なので、身なりはきちんとすべきだと、ダークスーツを選んで着ている。父がオーダースーツを用意してくれた他、連さんの妹の撫子(なでしこ)さんからもパンプスとスーツを頂戴している。

本店営業部に配属になったときに一度お会いした撫子さんは私よりひとつ年上。連さんによく似た華やいだ美しさを持つ女性だった。本店営業部上階ある文治銀行本部の企画部に所属していると聞いた。

ともかく、彼女が『兄がご迷惑をおかけすると思うので』と一式プレゼントしてくれた。卑屈になるわけじゃないけれど、たぶん私があまりにみすぼらしいと困るのだろう。天下の文治の次期頭取の後ろを歩くのだから。