翌日、俺は万難を排し終業後に恭を訪ねた。ふたりの新居は汐留の高層マンションにある。
本来なら今日からハネムーンだったので、恭は休みを取っている。連絡し、尋ねると、恭は広々とした室内を掃除をしていた様子だった。ワイパー型のモップを手に玄関に迎えに出てきた。

「巻き込んですまないな、連」

恭はなんともいえない顔をしている。俺は首を振り、土産のビールを手渡した。

「いや、家族のことだ」
「ありがとう、お義兄様」
「それ、やめろ」

俺は顔をしかめて、恭を小突いた。部屋は綺麗に片付いていたが、恭自身が荷造りをしていたり、この部屋を出ようとしている雰囲気はなかった。

「一日、やることがなくて家事をしていたよ」

恭は特段落ち込んでいる様子も見えない。
俺が持ってきたビールを開け、グラスに注ぎ、冷蔵庫からサラダとサーモンやタコの入ったマリネを出してくる。恭はつまみなどを自分で作るのが好きだ。料理が好きというわけではないそうで、あくまで自分で楽しむため、つまみを作るくらいらしい。
独身時代はデリや外食ばかりだった俺からすると、充分すごいと思う。

「撫子の癇癪だが」

俺は切り出すと、恭が首を振る。

「ああ、あれは癇癪じゃない」
「じゃあ、いったいどうした。おまえたちが喧嘩とは。初めてじゃないか?」
「初めてだから、決定的ともいえるな」

恭はふうと嘆息した。俺は少々不安になる。離婚だと昨日息巻いていた撫子が浮かぶ。恭も同じ気持ちなのだろうか。