「私は、連さんのお部屋におりますので」

初子が言った。照れもしていない。いや、内心は違うのだろう。撫子に気を遣わせまいと言っているのだ。

「あら、そうだったのね。野暮なことを言ってしまったわ」

撫子はふふふと嬉しそうに笑う。俺と初子のことはいいから、おまえはどうしたんだ、本当に。
しかし、撫子はそれ以上語らず、部屋が整うとあっという間に引っ込んでしまった。夕食は参加し、初子と世間話ばかりしている。どうも、恭との間にあったトラブルを語るつもりはないようだ。これは困った。

【おまえの花嫁がうちにいるんだが】

心配もしているだろうと、まずは恭に一報を入れる。すぐに返信のメッセージがスマホに入った。

【申し訳ない。彼女を泊めてくれると助かる】

恭も詳細を語る気はなさそうだ。俺は明日事情を聞きに行く旨伝えて、メッセージを終えた。撫子にはバレていないと思うが、俺と恭が連絡を取り合うことくらいは想定しているだろう。
当の撫子は初子と楽しそうに談笑している。食後もいつまでもダイニングに居座っているのだ。

「新婚夫婦の邪魔はしないから安心してね」

などというが、それなら早く貸している部屋に戻ればいいじゃないか。俺は初子とくっついてお茶を飲んだり、音楽を聞いたり、そのほかにも色々……。
結局、撫子のお喋りは長引きシャワーを浴びると引っ込むまで続いた。俺と初子もそれぞれ寝る仕度をすると、もう日付は変わっていた。