ホテルを午前中うちにチェックアウトし、ラウンジで昼食を摂ってから、私たちは自宅のマンションに帰った。

「初子、今日から俺の部屋で寝ないか? ベッドも狭いわけじゃないし」

着替えてきた連さんがそんなことを言う。まだ恥ずかしい気持ちもあるけれど、素直な気持ちを伝えたいので頷いた。

「私も連さんと一緒がいいです」

連さんが抱き寄せてくる。そのまま髪や額にキスを落とされ、照れくさいのと心地よいのとでクラクラしてしまいそう。

「あの、お夕飯の材料を買いに行こうと思うのですが、何か食べたいものはありますか?」

このままふたりでいると、昼日中からベッドになだれ込んでしまいそうだ。私はともかく、連さんは、今までそういった衝動を我慢してくれていたのだ。

「散歩も兼ねて俺も行くよ。考えながら買い物をしよう」

連さんも自身の欲求を持て余しているようで、ごまかすためか言う。

「では、お散歩しましょう」

外に出ると自然と手を繋いでいた。今更だけど、男性と手を繋いで歩くのは初めてだ。
私たちは近くの公園を散歩し、スーパーやドラッグストアに立ち寄った。夕食はお肉を焼くことにして、日用品なども買い込むと、二時間ほど経っていた。

レジデンシャル棟の高層階用エレベーターを降り、部屋の前まで進んで、私と連さんは足を止めた。思わぬ人物がそこにいたからだ。

「撫子? どうした」

連さんが声をかけると、昨日の式を挙げたばかりの花嫁がぱっと顔をあげた。

「兄さん、初子さん」

撫子さんはスーツケースを置き去りに私たちにずんずんと歩み寄ってきた。

「恭とは離婚するわ」
「は?」

呆気にとられる私と連さんを圧倒して、撫子さんは言い切った。

「しばらく泊めて!」