「あの、以前から思っていたのですが、私ってあんな感じですか? その燕の雛という。本店営業部の軒先の巣を、春に見ましたが」

俺は初子を見下ろした。どうやら、燕の雛という表現はお気に召さないらしい。

「雛と言っても真っ赤な口を開けて、羽毛が生えそろってないチビちゃんじゃないぞ。間もなく巣立ちの頃の雛だ。親燕より少し色が薄くて柔らかそうな毛で、顔もあどけなくて可愛いぞ。いつもダークスーツにシャツの初子は似てるなあと」
「はあ、垢ぬけないと、そういう感じですか……」
「悪い方向で取るな。あと顔だけなら、イタチ系の小動物だな」

可愛いという意味合いはイマイチ伝わっていないようだ。

「連さんは鷹みたいな大型の猛禽類というイメージです」

初子がふふと笑って言う。

「格好いいです」
「完全に捕食者じゃないか。初子は被捕食者」
「イメージです。食べないでくださいね」

食べてしまいたいなんて言ったら初子はどんな顔をするのだろうか。それとも、俺のそんな言葉を待っているだろうか。初子と過ごすと楽しい。
初子もまた、とても楽しそうだ。

「連さん、あそこに見える自販機でまた水分を買いましょう」
「ああ、気温が高いなあ」

俺も初子持参のキャップをかぶっているが、首筋にしたたる汗を止められない。ジムの涼しい環境で運動してかく汗と種類が違う気がする。