「……私が口にするのは恐れ多いですが、連さんがそう感じていることを恭さんもまた感じているのではないでしょうか。おふたりで切磋琢磨してきたのであれば」

連さんが私の目を見つめた。泉のように静かで透明な瞳に思えた。

「なるほど、お互い様ね」

ぽつりと発せられた言葉。連さんの瞳は凪いでいた。

「ありがとう、初子。でも、実は俺はもう吹っ切れてるんだ。実際恭の方が優れていたとしても、俺は頭取の座を譲らないって」

連さんが微笑んだ。それはいつもの自信にあふれた快活な笑顔だ。

「大事な人ができた。彼女にとって頼りになる大黒柱になりたいからな。迷っている場合じゃないんだ」
「あの……」
「もちろん初子のことだぞ」

頬が熱い。涙が引っ込み、はずかしくてどうしようもなくなる。

「初子、俺は俺で頭取になる道を目指す。おまえは、俺や文治のことは一度横に置いて、自分がしたいことを考えた方がいい」
「連さん」
「その上で、俺といてくれるならいてほしい。出自は俺を拒否する理由にならんとわかってしまっただろう? 初子が俺の好意を拒否したかったら『タイプじゃありません』ってはっきり言うしかないんだ」

意地悪くふふふと笑う連さんに私はとうとう声をあげて笑ってしまった。
連さんは不思議な人。すごい人だ。
硬くなっていた私の心をやわらかく温かくしてしまう。この人の健やかな心が私の硬い部分をとかしてくれる。