ところが、連さんはそんなことを思っていない様子。
彼は、このまま私と夫婦を続けてもいいと考えている。華やかな恋愛遍歴のある彼に、私のような地味なタイプはめずらしいだろう。そこが妻として相応しい安定感に見えているなら、誤解は早々に解いた方がいい。

私は文護院家に相応しい人間ではない。急場しのぎは務まっても、彼の妻として並びたつことはできない。
まして、文治の後継者を産む存在にはなり得ない。なってはいけない……。

雪平鍋の中で大根がボコボコ踊っている。お湯の沸騰する音で私ははっと我に返った。
朝食の準備をしなければ。連さんからしたら、ほんの一回のキス。妻への愛情表現。
いつまでも気にしていてはいけない。大丈夫、連さんだってわかってくれる。文治に、……連さんに相応しい女性は他にいると。

「連さん……、起きてこない?」

時計を見ると、普段ならとっくに起きている時間帯だ。昨夜は仕事をしている様子だったけれど、寝坊するほど遅かっただろうか。

一緒に暮らしてみるとわかるが、連さんは規則正しい生活を好んでいる。朝は休日でも寝坊しない。出された食事は綺麗に食べる。家で深酒はしない。健康と筋力維持のために積極的にジム通いをする。それらはすべて彼の日常で、苦痛に感じることはまったくないそうだ。
そんな彼が、まだベッドにいるなんて体調不良だろうか。