独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~

意地悪をしたかったわけじゃない。しかし、すっきりしない気持ちがあったのも本当だ。初子は俺の妻なのだ。中身が伴っていなくとも、その事実は揺らがせたくない。

二十時過ぎに帰宅すると、俺の部屋のダイニングに初子が食事を準備していた。いい香りがする。

「これは……」
「あの、肉じゃがです」

ベタなものが用意されていたな、とダイニングテーブルを覗く。鉢に盛られた肉じゃがはとても美味しそうだ。初子がおずおずと言う。

「申し訳ありません。男性に最初に作ってあげる手料理で検索したら肉じゃがが出まして。定番すぎるかとも思ったのですが」

素直に告白されてしまい、俺も突っ込みに困る。「そうか」と口の中で呟くにとどめた。
見れば初子の部屋の炊飯器が運び込まれている。味噌汁がコンロにかかっている。どうやら、自室の方で作り、俺の部屋へ運んできたらしい。茶碗を手に白米をよそおうとする初子に、声をかけた。

「今日は意外だった」
「はい、なにがでしょうか」
「初子は、あんな顔で笑うんだな」

初子が炊飯器を開けようとしたところで止まった。ゆっくりこちらを見る。

「顔……ですか?」

俺の言う意味がわからないようで、首をかしげている。俺は少し焦れて、目をそらした。

「越野支店長の前で笑っていた初子は、子どものようだった。いや、子犬というか」

こんなことを言ってなんになるだろう。しかし、俺の性格上、気になったことを黙っているのは難しい。