「……て、訳だから。悪いけど……」

この二人になら格好つける必要もない。
そう思ったけど、いざ正直に口にしたらすごく恥ずかしい気がした。
これ以上表情(かお)を見られていたらその感情を悟られてしまう気がして、扉を閉めようとすると……。

「ーー何言ってんのよ!
誕生日なんだから私達の奢りに決まってるじゃん!」

ランはいつもと変わらない明るく元気な声でそう言って、俺が扉を閉められないように強引に自分の身体を滑り込ませて玄関に入ってきた。
そして、ニッと微笑むと言葉を続ける。

「あのね!もう行った事ある人に聞いたらケーキや甘い物だけじゃなくて、スパゲティーとかポテトとか……。あ!ツバサの好きな野菜スープとかもあるんだって!」

それに、お決まりでライが続く。

「少食で元が取れないかも、って心配も無用だよっ?
大丈夫!姉さんがツバサの分も食べるからね〜!」

「なによそれ!私が大食いみたいじゃない!」

「え〜、だってそうでしょ?夏なのに2キロ太ったってこの前脱衣所で騒いでたじゃん」

「!っ……聞いてたの?!最悪!盗み聞き最悪〜!!」

まるで、俺に"微笑って"と言わんばかりに……。

きっと二人は、何らかの形で昨夜俺がレノアの前夜祭に行っていた事を知っている。
そして俺が元気のない本当の原因が、それである事も……。金欠を理由にして断る俺の、更にその奥にある真の理由に気付いているんだ。

本当に、ランとライには敵わない。

「……やっぱ、行こうかな」

「!……本当っ?」

「着替えてくる。ちょっと待ってて」

俺がそう言うと二人は顔を見合わせて微笑って、着替えに行こうとすると靴を脱いで家に上がったランが腕に纏わり付いてくる。

「あ!じゃあ私がコーディネートしてあげる〜♪」

「……お前、着替え覗く気か?」

「きゃ〜!姉さんのエッチ〜!」

静かだった家の中が、あっという間に騒がしくなった。
けど、そのおかげで俺は笑顔を忘れずにいられるんだ。