ゆっくりと、彼女の手が俺から離れる。
俺にはスローモーションのようにその手も、彼女の後ろ姿も映っていたのに……。手を伸ばして、掴まえる事は出来なかった。

鎖に繋がれたままの15歳(あの日)の俺が、一歩も踏み出せずに、ただただ後悔を重ねていくだけだった。


「……ツバサ様」

チャペルの中で一人で佇む俺の元にやって来たシオンに声を掛けられて、メモをポケットにしまうと俺は左手首から腕時計を外して差し出した。

「今日はありがとう。これ、兄貴に返しておいて」

「ツバサ様!お待ち下さい、只今お車をッ……」

「いい。一人になりたいから、電車で帰らせて?」

腕時計をしっかりと手渡して微笑みながらそう言うと、シオンは静かに「分かりました」と言って深く頭を下げる。


夜空に浮かぶ満月を見ながら痛感した。
身体が大きくなっただけで、俺は全然大人になれていないのだ。と……。