「あちらも準備が整ったようです。参りましょうか?」

「!……うんっ!」

言葉には出来ない程の嬉しさに、私はすっかり子供のような返事と態度になっていた。
レベッカの言葉に勢い良く椅子から立ち上がると、彼女にエスコートされながらツバサの居る場所へと弾む足取りで歩み出す。

私1人ならば完全に、このホテルにお母様が残していった警備や他の使用人達に止められてしまっただろう。
けれどレベッカが一緒に居てくれるお陰で、私は自由に歩く事が出来た。
両親の前では二人への忠誠心を優先する事もあるが、彼女は隙を見付けては私の我が儘を聞いてくれて、まるで姉のように甘やかしてくれる。
お母様がお父様と結婚してツバサ達と離れ離れになって寂しかったけど、レベッカが居てくれたから私は笑顔を忘れないでいられたのだ。
本当に彼女には感謝してもしきれない。


「……着きましたよ、お嬢様」

「!……ここ」

レベッカに連れられてホテルを出る事数分。辿り着いたのは、敷地内にあるチャペルだった。そんなに大きくはないが白壁に水色の屋根の外観がとても可愛らしく、人気の結婚式場。

私がレベッカの元を離れて足を進めると、扉の付近に居た灰色の髪と瞳の執事が胸に手を当てて一礼した。
この執事の事は知っている。以前ツバサの兄であるヒカル様に久々にお会いした時に側にいた男性、確かシオンさん。

「お待ちしておりました、レノアーノ様。
さぁ、我が主人がお待ちでございます。どうぞ」

「レベッカと協力して助けてくれたのね?どうも、ありがとう」

私がお礼を言って微笑むと、シオンさんは優しい笑顔を返してくれて、大きな扉のノブに手をかけた。


ゆっくりとチャペルの扉が開く。
きっと普通ならば、シャンデリアに照らされてキラキラとした輝きと、様々な装飾品に包まれたその美しい空間に惚れ惚れとするのだろう。
けれど、私が見つめるのはただ一点。

満月の力を借りたステンドグラスの虹色の光が降り注ぐ祭壇。
その前に立つ貴方を見付けた瞬間、私は花嫁と同じ幸せを感じた。

……ううん。そんな表現じゃ足りない。
振り返る貴方と瞳が重なった瞬間。

この人しか、いないーー。

私は自分にとっての、幸せの全てを知ったのだった。