早く自分のお家に帰りたい。
そんな事を思いながらベンチに座り、ただただ時間が過ぎるのを待っていると……。

「ねぇ、なんでいっしょにあそばないの?」

俯いている私の顔を覗き込むようにして、正面に小さな男の子がしゃがんだ。その男の子がヴァロンさんによく似た白金色の髪と瞳の子供、ツバサ。
でも、大好きなヴァロンさんに似ているとはいえまだ子供で、しかも自分より年下の彼に私は興味なし。そればかりか……。


「いっしょにあそぼうよ!たのしいよ」

「!っ……ちょ!やめてよッ、汚い!」

差し出されたのは泥で汚れた小さな手。私は咄嗟にそれを引っ叩いて拒絶してしまった。

しかし、すぐにハッとした。さすがにそれは当時の私でも"酷い事をしてしまった"と自覚があって……。けど、謝る事も上手く出来なくて、気まずかった。

でも、チラッと様子を伺うと、ツバサは怒るんじゃなくて自分の汚れた両手を見てキョトンとしていた。
そして、私に大切な事を教えてくれる。

「あそんでるんだから、きたなくてもいいんだよ?さいごに、ちゃんとあらえばいいんだもん!」

「!……え、っ」

「かあさんがいってたよ!こどもはたくさんあそんで、よごれるの!ふくもせんたくすれば、いいんだよ?」

そう言って微笑って立ち上がると、ツバサはさっき引っ叩かれた事などに躊躇せず、私の手を引いてベンチから立たせた。

大人以外に初めて握られた、手。その手のぬくもりからは、不思議な暖かさを感じた。
汚い、って振り解く気なんて全く起こらなくて、むしろ何故か心地良く感じたの。