「……けれど、中身は全くお父様(ヴァロン様)に似ていないのね?残念だわ」

"残念だわ"。
その悲しそうな響きが、動揺していた俺を一瞬でハッとさせる。ミネア様はそう言うと、俺から離れて再び大きな窓に向かい背を向けた。

「単刀直入に言うわ。
娘には、もう近付かないで。あの子(レノアーノ)と貴方ではこれから生きていく世界が違うの。……分かるでしょう?」

ミネア様は、気持ち良いくらい、ハッキリと言ってくれる。
昔から知っているが、この女性(ひと)はこういう人だ。冷静に告げるから、みんなに冷たい印象を与える。

「色んな国の貴族や王族が、あの子(レノアーノ)を嫁にと望んでくれているのよ。
幼馴染とはいえ、貴方はただの学生で異性。今日のように親しくされれば、それは悪い噂でしかない」

でも、俺は知ってる。
不器用で優しい面を出すのが苦手なだけで、この人はいつも自分の娘(レノア)を大切に想っていて、そして俺の事も陰ながら応援してくれていた事を……。

俺が夢の配達人になりたての頃、どう考えても新人の俺に来る依頼じゃなかった仕事がよくあった。気付かないフリをしていたけど、依頼人を見れば一目瞭然。ミネア様が周りに頼んで依頼してくれていたんだ。
俺が早く、白金バッジの夢の配達人になれるように……。

だが俺は、その期待に応えられなかった。
さっきミネア様の言った"残念"とは、そういう意味。
でも、俺が父さんを失った悲しみにも気付いているから……。夢の配達人を辞めた事(その事)には触れない。

この人は自分が悪役を買って出てくれている。
正論を並べて、俺とレノアが親しく出来ない理由を全部自分のせいにしようとしてくれていた。