「何をしているのです、みっともない!
貴女の為に集まって下さった皆様に失礼ですよ!」

「っ……お母様」

招待客の間をすり抜けて歩み寄ってくるミネア様。レノアはその存在に気付くと少し離れ、守るように俺の前に立った。

「お母様。
お言葉ですが、本日は私の誕生日前夜祭ですよね?ならば少しだけ……。この会場内でも自由にして頂けませんか?」

「……」

「私は自分のお祝いの席でも!この会場内ですら自由に、話したい者とも話してはいけないのですかっ?」

騒ついていた会場は、親娘の険悪なその雰囲気にシンッと静まり返る。
しかし、レノアの主張に全く動じる事もなくミネア様は冷静に返した。

「口を慎みなさい、レノアーノ。
これはお父様が貴女の為に開いて下さったお祝いの席よ。
貴女ももう二十歳。自分の軽率な行動が後にどうなるか……。分かるわね?」

分かるわね?
圧のこもったその言葉に、見ている者のほとんどがまるで自分に言われたかのように息を呑んだ事だろう。
その言葉は、俺の胸にも痛く響いた。

「っ……。
分かりました、戻ります」

レノアは俯いて、自分で自分の手をキュッと握り締める。
そんな、ミネア様に(たしな)められてそう言う彼女の背中を、俺は黙って見つめる事しか出来ずにいた。
こんなに近くに居るのに……。手を伸ばせば触れられる距離に居ながら、俺はただただ見つめるだけだったんだ。
あの日と、同じだ。あの日、追い返したレノアの背中をただ黙って見送ったあの時と同じ……。


ーーああ、やっぱり。俺は変われない。
そう痛感して、目を逸らそうとした瞬間だった。
大人しく自分の世界の中心に戻っていくものだと思われたレノアが、チラッと一瞬顔だけ振り向いて俺に語り掛ける。