そんな訳で、俺は観念して部屋に入ると扉を閉めて兄から缶を受け取った。
プシュッと封を空けて兄と缶を軽くぶつけて乾杯すると、ベッドの端に座り酒に口をつける。

ヤバい、美味い。

風呂上がりのせいもあるだろうが、余計に美味く感じる。
もちろん普段は一滴も飲まないが、俺は母方のひい祖父さんの遺伝なのか酒が大好きだった。

「お〜相変わらずいい飲みっぷり。前に何かの祝いで夜中まで一緒に飲んだけど、お前相当飲めるよな?
ほら、他の種類も飲んでいいぞ」

さすがそんなに大きくはないが、仮にもいくつか会社を持つ社長さんである兄。
あまりこの辺りでは見ない酒の種類もあって、床に並べられた缶に俺は目を輝かせてしまった。

……が。
一本目を飲み切って、二本目の封を空けようとした時。ハッとして、兄を見た。
笑みを浮かべて「ん?」と言う感じの兄を見て俺は思った。"これは何かある"と。


「……目的はなんだ?」

「!……な、何が?」

「言っとくけど、俺は簡単に酔わねぇぞ?」

「っ……はははっ、さすがだね〜ツバサ君」

俺の言葉に兄は明らかにギクリと動揺して、すぐに白状した。
良いところでもあり悪いところでもあり、兄は隠し事が出来ないタイプなのだ。

「なに?何か仕事?」

きっと何か頼み事があるのだろうと思った。
今に始まった事じゃない。夢の配達人の時も俺は時々兄の依頼を受けていたし、辞めてからもたまに頼まれて仕事を手伝ってお小遣いを貰っていたから。

「別に……。だったらこんな賄賂(ワイロ)贈るみたいな事しなくても、言ってくれたら手伝うし」

「!……マジ?!優しい弟を持って兄ちゃんは嬉しいぞ!」

俺の言葉に兄は大袈裟な喜び方。
同性同士だとなかなか恥ずかしくて素直には言えないが、大切で大好きな兄の頼み。もう夢の配達人じゃないけど、俺なんかで役に立てるならいつでも力になりたい、何でも叶えてやりたいと思ってた。