「そうね、嫌われては……いないと思う。
でも、無理よ。ミライさん、好きな人がいるもん」

「えっ?」

「あ、ミライさんが言った訳じゃないよ?
ただ、見てたらなんとなく……分かっちゃったんだよね」

姉の言葉に、俺は驚いた。
ミライさんに想い人がいるって事もそうだが、師匠と弟子として長い期間を共にした俺でさえ気付かなかったのに……。"なんとなく"とは口では言っているが、姉の雰囲気を見ればそれを確証しているのが分かるからだ。
そして、姉がそれだけミライさんの事をよく見ているんだという事が伝わってきた。

「……どんな人?」

「!……え?」

「その人、どんな人?
姉貴よりも良い女性な訳?」

俺は不機嫌な口調で尋ねた。
だって、なんだか気に入らなかった。
俺が腹を立てても仕方ない、好き合う、付き合うというのは互いの気持ちの問題だから、他人が口を挟む事なんて出来ない。
でも、そう分かっていてもモヤモヤした。

そんな俺を見て姉は少し困った表情をしたが、夜空を見上げながら教えてくれた。

「……そうね。私の目から見ても、素敵な人。
いつも自分の事よりも人の事ばっかり考えて、誰かが幸せになれるなら嘘をつき続けるの。優しい嘘つきさん」

「っ……嘘つきは、所詮嘘つきじゃん。そんなの優しさじゃない」

「一途で、一生懸命。本当は泣き虫で色んな事に不安で怯えてるのに、手探りで前に進もうとしてるの。
ミライさんもきっと、そんなところが放っておけないんだと思う」

「姉貴だってずっと、ミライさんに一途じゃん……ッ」

自分で聞いておいて、姉が恋敵を語る度に気に入らない。その相手を否定してやりたくなる。
悔しい気持ちが溢れてきて、俺はいつの間にか拳を強く握り締めていた。

すると、俺を見た姉はくすっと微笑みながら俺の頬に手を触れた。