……
…………。

「……ホントに、送らなくて大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫!
花火まだ見たいし、この後ライと合流するから!」

約束の1時間はあっという間に過ぎちゃって、ツバサは帰宅……というか、夢の配達人の隠れ家に移動。聞けばまた今から下克上に向けて色々と勉強や準備をするらしい。
忙しい合間に時間を作って来てくれた彼。これ以上引き止めて、足を引っ張りたくない。
ツバサを見送る為に少し人混みから外れた場所まで来た私は、笑顔でヒラヒラと手を振った。

これからお互い忙しくなって、お互いがある程度落ち着くまでは暫く会えなくなる日が続くだろう。ほんの少し前に一緒学校に通って、毎日のように共にした日々も思い出に変わる。
そんな夢みたいに儚い現実に寂しさがない訳じゃないけど、明るい未来を想像して笑ってた。

でも、ツバサはホントに最後の最後まで鈍い。

「学校、行って良かった」

「……え?」

「色々あったけどお前達との時間、すごく楽しかったよ」

ふと、呟くように言われたその言葉が、この状況では切なく心を締め付ける。

「ランとライと学校行けて、良かった。
毎日一緒に居てくれて、本当にありがとうなっ」

ーー……っ、ダメ。
今、そんな事言われたら……泣いちゃうじゃん。

本当に本当の、別れ際で良かった。

「んじゃ、ライにもよろしく!またな!」

ツバサがそう言って背を向けて駆け出すのがあと1秒遅かったら、全部全部台無しだった。
ボヤける視界に映っていた背中はあっという間に消えて行って……。俯いた瞬間に、誰かが私の頭を優しく撫でてくれる。

顔を見なくても分かる。
誰よりも私の気持ちを分かってくれる、大事な大事な相棒(きょうだい)ーー。

「っ……はぁーあ!ツバサの馬鹿!
今日生まれて初めて、ツバサを殴ってやりたくなった!」

そう言うライの声は明るく振る舞っているようだけど微かに震えてて、きっと私よりも辛そうな表情をしていたと思う。

「っ……ダメッ。そんなの、絶対ダメ……っ」

「……。
分かってる。分かってるよ……ッ」

顔を上げられない私を抱き締めて隠してくれる優しい弟。その、何よりも安心出来る存在には感謝と、ほんの少し罪悪感を感じた夜。

いつか今日の事を笑って話せるようにーー。

そんな日が来る事を信じて、私達はそれぞれの人生(みち)を歩み始めたのでした。


【片翼を君にあげる①-終わり-】
※2巻に続きます(^^)