また、会えたーー。

ツバサ君を見てそう感じたのは間違いではなかった。
ヴァロン殿との出会いが昔私を変えてくれたように、ツバサ君もまた、変えてくれた。
私を"アッシュトゥーナ家の主人"ではなく、本当の"レノアーノの父"にしてくれたのだ。

「一つ、聞かせてくれ。
何故、君がそこまで我々の為にしてくれるのかね?」

幼馴染みである事。レノアーノへの想いを最初口にしなかったツバサ君に、私は意地悪な質問をした。
年若い、まだ恋心を素直に態度や口に表すのは恥ずかしく思う年頃であろう。けれど、私はどうしても聞きたかった。
すると、彼は苦笑いしながら答えた。

「違うんです」

「違う?」

「自分一人では、何にも出来ないんです」

その言葉が決め手だった。
私が彼を信じられたのは"ヴァロン殿の息子だから"でも、"レノアーノへの想いが強い"からでもない。

「今の自分には何もない。何も出来ない。
でも、変えたくて……変わりたくて、今のままでは嫌で、っ……だから!……力を、貸して欲しいんです」

己の無力さを認めて、それに(なげ)く事なく真っ直ぐに前を向く直向(ひたむ)きさ。

「ごめんなさいっ……。助ける、なんて偉そうな事は今の自分には言えません。
貴方が力を貸してくれなければ、私は自分がしたい事も何も出来なくてっ……始まらなくて、……」

彼の年齢でこんな言葉を言えるなんて……。
きっと、他人からは想像も出来ない程の挫折を味わい、また乗り越えて来たに違いない。

軽率で愚かな質問だった。
ツバサ君の想いは、私の想像より遥かに優っていた。

「私が助けるのではなく、私が助けて頂きたいんです。私が、自分の夢を掴める場所にもう一度行けるように……!よろしくお願いしますっ!」

先に、頭を下げられてしまった。

レノアーノの名も。レノアーノの為だ。とも、ツバサ君は一切口にしなかった。
護りたい。約束したから。とか、綺麗な言葉を並べる事も一切しなかった。

ヴァロン殿。
ツバサ君は貴方に似ているけど、似ていなくて……。でも、やはり美しい心は一緒です。

「ーー私は、家の為に娘を犠牲にはしたくない」

彼の素直な心に触れて、私自身もようやく今自分が1番想っている気持ちに気付けた。

「娘が笑顔でいられる未来を、共に創ってくれるか?」

「っ、……はい!勿論です!」

そして私とツバサ君は、ガッチリと握手を交わした。