「あ、自己紹介が遅れたな。俺はヴァロン」
「ヴァ、ヴァ……ロン?
まさか貴方!その、髪と瞳。ヴァロン、って……もしかしてっ……」
少し会話をした後、自己紹介をしてくれた男性の言葉に私はまた驚いたよ。
ーー託された夢は必ず叶えるーー
まさか、かつて19年もの長い間最高位の白金バッジを維持し続け、数えきれない人々の夢を叶え続けた、あの伝説の夢の配達人と謳われた"ヴァロン"本人が目の前に現れたのだからね。
「あ、やめてくれよ。俺はもう今は夢の配達人じゃねぇんだ。そこら辺にいる"ただのおじさん"の1人だから、そんな感じに扱って?……で、こっちはミネア」
「騒がしくてごめんなさいね。ミネアです、よろしく」
「!……え?ミネア、って……貴女はもしかしてハンク様の娘さん、では?」
「!……父を、ご存知なのですか?」
驚きの連続だったよ。
連れの女性は国で上位を争うホテルを建設しているハンク様の娘。そして当時はお父さんから独立して会社を立ち上げ、"働く女性の鏡"として活躍し始めていた人だったのだから。
今夜はすごい日だな。
憂鬱な気分でここへ来たのに、輝かしい二人を目の前にして私の気持ちはすっかり弾む。
しかし、自己紹介されれば、当然こちらも名乗らない訳にはいかない。それに……。
「父をご存知、と言う事はもしかしてお仕事でご一緒した事があるのでは?」
「!っ、え……あ、はい。まあ……」
その質問に思わず口籠もってしまった。
が、先程自ら彼女をハンク様の娘、と口にしてしまった以上、下手に誤魔化す事は出来ない。
自分の素性を明かせば、その家柄や立場から周りの人が余所余所しくなってしまい、悲しい思いや寂しい思いをする事が多々あった私は、出来ればこの二人に本名を語りたくないと思ったのだ。
……でも、それは一瞬だった。
私を見つめるヴァロン殿と瞳が重なった瞬間、そんな思いは一切消える。
大丈夫ーー。
そう告げる何かに動かされて、口が開いた。
「僕は、ヴィンセント。
ヴィンセント・アッシュトゥーナ、と申します」
「!……ヴィンセント、って。貴方があのアッシュトゥーナ財閥のっ?」
ミネアは私の素性を知って、とても驚いていた。
……けど、ヴァロン殿は……、……。



