「やはり、貴方の息子さんですね。ヴァロン殿」

いけない、と思いつつも離れた廊下の曲がり角から二人の様子を暫く見ていた私は思わずそう言葉を溢した。
一人は血の繋がりはないが、10歳から育ててきた大切な娘レノアーノ。そしてその相手は、私の尊敬する男性(ひと)の息子さんであるツバサ君だ。

娘は二十歳、そしてツバサ君は18歳。
二人は年頃の男女で、すでに結婚出来る年齢に達している。自分も若き日の頃はまたそうであったように、男女が……。ましてや好意を持つ者同士が二人きりの時間を持てば、どんな展開になるのかは大体予想がつく。
想い合う二人を束の間でも一緒にしてやりたい気持ちと、しかし、ここはやはり父親としての複雑な気持ちも抑え切る事が出来なかった私は、物分かりのいいフリをしてついつい物陰から二人を見張ってしまっていた。
だが、二人は全く私の気持ちを裏切る事がなく、抱き合う事も、口付けを交わす事も……深く触れ合う事は一切しなかった。


ツバサ君が初めて私の目の前に現れたのは、ほんの数日前。
ドルゴア王国からの、レノアーノへの婚姻。その事で悩んでいた私が、行きつけのBAR(バー)で一人で飲んでいた時の事だった。
そのBARは会員制で限られた者しか入店が許されない場所。故に怪しい者が出入りする事はない、昔から私のお気に入りの場所だった。
悩みが解決しない時、一人で考え事をしたい時にカウンター席に座ってその時の気分に合った酒を(たしな)む。そうすれば、いつも何かしら上手い方向へ転んでいたから……願掛け、のようなものでもあったのかもしれない。
だからあの時も、ハッとした。

『初めまして。
ヴィンセント・アッシュトゥーナ様ですね』

名前を呼ばれて、彼を見た瞬間。
私は"また会えた"と、思ったんだ。

……
…………。