「お前はいつだって俺を想ってくれて、考えてくれて……。全てを捨ててまで、俺の所へ来てくれようとしてくれたな。……本当に、ありがとう」

今まで言えなかった「ごめん」と「ありがとう」。
そんな言葉を一回言っただけでは足りないのに、レノアは俺の言葉を聞いて、涙を流して、首を横に振った。
今の俺には、まだ完全に彼女の涙を止める事も、堂々と抱き締めてやる事も出来ないけど……。
けど、そんな日が必ず来る事を、俺は約束する。

「でも、お前が全てを捨てる必要はない。……俺が必ず、お前の場所(そこ)まで行く」

「っ、……ツバ、サ」

「子供の頃約束した通り、俺が白金バッジの夢の配達人になって、お前を迎えに行く」

俺は(ひざまず)いてレノアの左手を自分の両手で包むように取る。
この小さな手で彼女が護ろうとしている全てを、これからは俺も共に護って行こうと誓いながら、そっとその甲に口付けた。

「お前は何も手放さなくていい。すぐに、迎えに行く」

「っ……う、ん」

「必ずお前の隣に……。一緒の景色を見られる場所に行くから……信じて、待っててほしい」

幼いあの日、離れ離れになってしまう最後の日に交わした約束。あの約束が今再び、更に固いものになって結ばれる。

俺の言葉にレノアは微笑むと、包んでいた手を軽く握り、その後ゆっくりと小指を立てた。

約束の指切りーー。

俺はレノアの小指に自分の小指を絡めると、彼女を見上げて頷く。

「っ、約束だよ……!
絶対、ぜ〜ったい!迎えに来てね!」

「ああ、約束だ……!」

抱き合う事も、口付けを交わす事もない俺達を見たら、さすがの神様や天使も呆れて笑うだろうか?
小指から伝わってくる温もりだけで満足して、幸福に包まれている俺達を"馬鹿だ"って思うんだろうか?

一緒に居られる未来を当たり前だと信じていた自分を、殴ってやりたくなる日がそんなに遠くない事を……。俺は、まだ知らない。

……
…………。