足を進めて廊下に出ると……。
俺を見付けた声の主、レノアが微笑んで息を切らしながら言った。

「!……ツバサ、ッ……良かった、まだ……いて」

はぁはぁ、と乱れている呼吸を整えながら、必死に紡がれる言葉。
サリウス様達を表の門まで送って、おそらく全速力で駆けてきたのだろう。せっかくおめかししてるのに汗だくで、何処から脱いだのかヒールの高い靴を手に持って、裸足で……。

ーー全く。
こいつは何で、こんなに可愛いかな。

そんな真っ直ぐな彼女の姿に胸をキュッと掴まれた俺は、一瞬全てを忘れてただレノアを見つめていた。すると……。

「ツ〜バ〜サ君!」

「!……ノゾミさん」

「立ち止まってどうしたんですか?後ろがつかえてますよ〜。……って、あらあら。レノアちゃん、お久し振りです」

「!……え?あ、ノゾミちゃん?」

立ち止まって出入り口を塞いでしまっていた俺の背後から顔を覗かせたノゾミさんと、最高責任者(マスター)と一緒に来ていた女性が幼い頃に一緒に遊んでいた友達だった事に気付いたレノアが、そのまま俺を間に挟んで会話を始める。

「やだっ、あんまり綺麗になってるから分からなかった」

「ふふっ、ありがとう。レノアちゃんも相変わらず可愛いですわよ」

懐かしい友達と再会出来て、二人はとても嬉しそうだ。
……しかし。ノゾミさんが異様に自分に密着して来ているというか、彼女が女性の中でも胸が大きめのせいもあるのだが、さっきから背中と右腕に柔らかい感触が押し当てられている。

これは不可抗力とはいえ、マズいのではーー?

まさかノゾミさんがワザとやっているなんて考えもしない俺は、さり気なく身を退けようとした。
しかし、ノゾミさんはそんな俺の右腕を捉えて自分と腕を組むような形にする。そして更にギュッと密着したままレノアと会話を再開した。

「これから今回の件でまたお会い出来る事も増えると思いますわ。その際は、よろしければお茶でもしませんか?」

「!……え、ええ。勿論、よろこんで。……」

ノゾミさんの言葉にレノアはそう答えた。
が、俺とノゾミさんの密着具合をチラ見して、明らかに笑顔を引き攣らせている。

これは、マズいのではーー?
てか、なんか……空気が怖い。

俺はこの時初めて、女性の怖さに少し触れた。