その様子を見て胸がズキッと痛み、先日自分が取ってしまった失礼な行動を恥じる。

……俺は、なんて失礼で(いき)がった事をしたんだ。

あの時の自分は格下どころか、まだ夢の配達人ですらなかった。それなのに、宣戦布告をするような、なんて馬鹿で愚かな行動をしてしまったのだろう。

しかし、俺がそんな気持ちの中でも状況は進む。最高責任者(マスター)が提示してくれた条件が決め手となり、当然一気に良い方向に交渉は傾いた。

「ーーいいでしょう。
それだけの覚悟とものを示して頂いて、こちらは文句の付けようがありません。
ツバサ殿が提案した勝負、お引き受け致しましょう」

サリウス様の明るい声が、部屋に響き渡る。
ヴィンセント様はホッとしレノアと顔を見合わせて微笑み、またレノアもこの結果と緊張感に包まれた空気から解放されて気が緩んだのか、安堵したように少し涙ぐんで微笑んでいた。
ドルゴア側はサリウス様以外はあまり態度に変化は見られず、側近のリヴァルは少し納得いかないような表情にも見えた。
記者達は目の前で起きた様々な事に驚きつつも、良い記事が書けそうな事に喜んでいる様子。

そして……。

「ありがとうございます。さぁ、ツバサ」

「!……っ、はい」

「正式な契約書の作成を頼みます。
ノゾミ、ヴィンセント様とツバサの補佐を」

「かしこまりです」

ーーそうだ。
まだ最後まで、呆けている場合じゃない。

最高責任者(マスター)の言葉に俺は気を引き締め直すと、その後、細かい詳細や契約内容の確認を済ませて……。
夢の配達人に復帰してから初めて、大きな仕事を一つ、終わらせた。