本部には最高責任者(マスター)の部屋以外に医療施設や、夢の配達人が任務の為に使う資料が保管された図書室のような場所がある。あとは、配達人や調査員が使う寮とか。
今の最高責任者(マスター)であるシュウさんの父親、前最高責任者(ぜんマスター)ギャランさんが造ったこの隠れ家は、ゲーム好きの彼が考えただけあり遊び心満載。
近道出来る隠し扉や通路、目的場所に向かうまでに楽しめる謎解きが壁に貼られたりしていて、攻略するのも夢の配達人としての修行の一環だ。

けれど、今日はまだ楽しんでいる場合ではない。
俺は建物に入ると、最高責任者(マスター)の部屋を目指して一目散。

後は角を曲がり、その廊下を抜けたらすぐだーー。

胸を弾ませて角を曲がった。

その時だった。
俺の瞳が"ある人物"を捉えて、一瞬呼吸と共に足が止まる。
俺の目の前で、ゆっくりと廊下を歩いて来るのは……。

茶色い髪と瞳。
長身で、バランスの取れた肉体を緑色のチャイナ服に身を包んだ、最強の白金バッジの夢の配達人。
俺の元師匠であり、憧れの夢の配達人……。

ミライ、さんーー。

心の中でその名を呼ぶと、それに反応したように持っていた資料から目を離したミライさんが俺を見る。
そして、フッと口元だけ微笑った。

ミライさんは歩みを止めない。
真っ直ぐ前に、中央を歩いて廊下を進んで来る。
俺も、再び真っ直ぐと歩み出した。
一歩、一歩、互いが進む度に近くなるミライさんと俺の距離。

もうすぐ、すれ違うーー。

本来ならば暗黙の了解で、格下の夢の配達人は格上の夢の配達人に道を譲り、脇に控えて頭を下げるのが礼儀だ。

……けれど。
俺はそのまま退かずに、歩みを止めずに、ミライさんとすれ違った。
それはすなわち、夢の配達人の世界では"貴方から必ずバッジを奪う"と言う決意の表れ。
下克上を、意味する。

「……これはこれは。
宣戦布告。と、取っていいのかな?ツバサ」

顔を見なくても、ミライさんが笑っているのが分かる。
だから、俺も笑って言った。

「すぐに追い付きます。
そして、必ず追い越します……!」

胸がドキドキして、震え上がるくらいワクワクしてる。
怖い物知らずの少年に戻ったかのような俺はそのまま真っ直ぐ進むと、最高責任者(マスター)の部屋の前まで歩みを止めなかった。