成長していく中で、やっぱり天使の血を持つツバサの悩みは絶えなかったけど……。その度に、私達は家族で力を合わせて乗り越えて来た。

ツバサは私の夢を叶えてくれた。
ツバサが産まれて来てくれた事で、私達家族の絆は間違いなくより強いものになった。
充分過ぎる程に、私達にたくさんの幸せをくれた。

それなのに……。

『っ……お願い、ツバサ!
危険な事はもうしないでッ……遠くに行かないでっ?
あなたにまで何かあったら、私はもうっ……生きていけないッ!』

ヴァロンを失った悲しみに耐え切れなくて、その辛さを全て、この子に背負わせてしまった。

月日が経つにつれて酷い母親だと実感しながら、この子の優しさに甘えていた。
だから今日、信じられなかった。

『俺には、その人の笑顔が世界で1番輝いて見えた』
『俺の初恋の人はね、母さんだよ』

そんな風に言ってくれるなんて、思わなかった。
『大嫌いだ』『面倒臭い』って言われても仕方のない母親の私を、ツバサはこんなにも想ってくれていた。

この子は間違いなくヴァロンの美しい心を受け継いでいて、この先きっとたくさんの人を幸せに出来る人間になれる。
今はまだ忌まわしいと感じる天使の血もいずれは心の底から受け入れ、その"天使"という名に相応しい使い方を出来るようになるだろう。


「私達の元に生まれて来てくれて、本当にありがとう。ツバサ」

今夜だけは、と、私は眠るツバサの前髪をそっとあげると、その額に軽く口付ける。

『ーー母さん』
『話があるんだ。
大事な、大事な話。聞いてほしい』

雨の中でそう言うこの子の声と眼差しは、ヴァロンが真剣な話をする時によく似ていた。
我が子の成長が嬉しくて、ほんのちょっと寂しくて、涙が自然と頬をつたり落ちていた。

こんなにも愛おしく感じる夜は、ヴァロンを失って以来初めてだった。