「なん、で……?」

「"何で?"……それを君が聞くの?
夢の配達人の仕事は依頼人の夢を叶える事、だ。一度交わされた契約は、最後まで(まっと)うする」

分かっているのに頭が、心が付いていかない俺から漏れた問い掛けに、ミライさんは答える。

「夢の配達人が決して犯してはいけない事。
依頼人を失望させる事、夢を奪う事。……そして、命を奪う事」

普段(いつも)より低い声に変わったと思ったら、笑顔が消えて。ミライさんの右手が、俺の喉を掴むように添えられた。

「でも、お前が邪魔をするなら。その一歩手前までなら……」

オマエヲ、ヤルヨーー?

「ッーー……う、わぁああーーッ!!」

ゾクリッと感じる恐怖に耐え切れず、まるで幼い子供のような情けない叫びが飛び出す。離れたくて、離したくて、夢中で振り解こうと喉に添えられた手を掴む。

「……けど、その心配はなさそうだね。
今のお前には僕が全力で挑む価値なんてない」

そんな俺にミライさんは冷静にそう言うと、いとも簡単に掴まれた腕を逆手に取って返し技を仕掛けた。身体が宙に浮くような感覚がしたと思ったらそれは一瞬で、すぐに今日食べた物が全て出てしまうんじゃないか?って位の衝撃を背中に感じて……痛い、なんて感じる暇もないまま、ドシャッ!!と、地面に叩き付けられていた。

「ツバサーーッ!!」

レノアの、泣きそうな叫び声が聞こえた時には、全身に激痛が響き渡っているかのように巡って、立ち上がれない。

「ぁ、ッ……はっ……ッーー……!」

息が上手く吸えない。
全身を叩きつけられた衝撃で身体が思うように動かせない。
ミライさんという、自分の中で数少ない気を許せると思っていた人物のまさかの敵対に、身体も心も打ちのめされていた。

……でも。
それでも、俺の瞳はちゃんとレノアを捉えて、ようやく見付けた光をしっかりと心に灯していた。

『ずっと、一緒に色んなものを半分こして生きていこう!』

こんな俺に、レノアはそう言ってくれた。
俺は何一つ約束を守れてないのに、彼女はずっと変わらない気持ちで俺を見続けてくれていた。

『君にとって、何が本物で、何が真実?』

さっきの店主さんの問い掛けが蘇る。

レノアと、一緒に生きたいーー!!

今ならハッキリと分かる。
この気持ちに嘘なんてなくて、彼女も俺を望んでくれているなら、それは間違いなんかじゃない。