それは出張中の出来事だった。
取り引き先の元へ行っていた父さんが帰りに利用した列車が、地震による土砂崩れに巻き込まれたのは……。
更に最悪だったのが、破損した列車が爆発して炎上。中にいた、逃げ遅れた乗客はほぼ丸焼けで……。全焼した遺体から、父さんが身に付けていた腕時計だけが焼けずに残っていた。
その腕時計は父さんが母さんの祖父から会社を受け継いだ時に譲り受けた特別な時計で、この世に二つとない品。
父さんの死は、決定的だった。

母さんはその日からずっと無気力状態で、時折り静かに涙を流してた。
その姿は泣き叫ぶよりもいっそう哀しそうで、見ていてとても辛かった。
やつれて、あっという間に痩せていく母さんを見て、このままじゃ母さんまで死んでしまうんじゃないか?って怖くなった。

だから俺は、母さんの"お願い"を断る事が出来なかった。
母さんをもう一度笑顔に出来るのは、父さんの容姿を誰よりも受け継いだ俺しか……いないと思った。

……だから、後悔はない。

だけど、時々想像するんだ。
父さんが亡くならなければ……。
父さんの容姿を受け継いだのが俺じゃなかったら……。
あの日、母さんのお願いを断る事が出来たのならば……。
俺と彼女の距離は、少しは縮まっていたんだろうか?

通学途中にある本屋。
『アッシュトゥーナ財閥御令嬢、レノアーノ様。間も無く二十歳のお誕生日!!』
店頭に並ぶ週刊誌の表紙を飾る美しい赤茶色の髪の女性を見て、俺はそう思わずにはいられなかった。


これは、俺と彼女の"半分こ"のお話。