「こうして話すのは2年振りですね?元気でしたか?」

ジャナフとノゾミさんから少し離れた広場の端で、シュウさんが口を開いた。
休日の広場は平日よりも人が多くて賑わっていて、子供達の騒ぐ声がうるさいくらいな筈なのに……俺の耳にはシュウさんの声しか届かない。
ただ何気ない問い掛けをされただけで、俺の心臓はバクバクだ。震えないように、軽く息を吸って答える。

「はい、ご無沙汰しております」

「アカリさんも、お元気ですか?」

「……はい」

元気ーー。
父さんがいなくなってからの母さんのあの姿を、本当の元気と言えるのかは分からない。
でも、無気力状態で静かに涙を流されていた頃よりはずっと良かった。家事をして、働いて、微笑んで……そんな風に日常を過ごしている母さんを見ると、俺があの時した選択は間違いじゃなかったと思えるんだ。

……けど。
俺の返事を聞いたシュウさんは、更に突っ込んで質問してくる。俺の痛い部分、今にもヒビ割れそうな奥の感情に……。

「では、君はいつ夢の配達人に戻ってくるんですか?」

「!っ……、え?」

「アカリさんはもう元気なのでしょう?ならば、そろそろこちらに戻って来なさい」

「っ、ちょ……ちょっと待って下さいっ」

シュウさんは何を言ってるんだーー?

俺には何故、シュウさんがそんな事を言うのか分からなかった。夢の配達人を辞めた俺に、今更いつ戻ってくるのか?なんて……。
予想外の言葉に、混乱と動揺を隠せない。そんな俺に、シュウさんは言葉を続ける。

「ミライがね、あと2、3年で夢の配達人を引退します」

「!……え?」

「『ミライさんの手から白金バッジを奪う』と、ミライと約束したんでしょう?あの子はそれを、とても楽しみにしているんですよ?」

「っ、……それ、は……もう……」

「ミライを、裏切るのですか?」

「っ……」

「それに、ミライの白金バッジはかつて君の父親ヴァロンが持っていた特別な白金バッジです。
……君はそれを、他の誰かに渡してもいいのですか?」

「……」

何なんだよ、っ……意味、分かんねぇ。

一度に色んな事を言われて、ハッキリ言って俺の頭の中と心の中は容量オーバーでパンクしそうだった。