「そして……。ツバサ?」

「!っ、……」

「本当に、君がそこにいるのですか?」

「……」

シュウさんの問い掛けにも、俺は即答出来ずに居た。
シュウさんは難病を患って目が不自由。その分聴力など他の感覚が優れているが、本来なら声を発してこちらから駆け寄っていくのが人として普通だろう。
それなのに俺は、自らの脚も、身体も動かせない。
でも、そんな俺に構う事なく、シュウさんは側にくると言った。

「ちょうど良かった。ツバサ、君に話があったんです。少しあちらで話しましょう。
ノゾミ、その間に新入りさんに履歴書を記入してもらっておいて下さい」

「かしこまりですわ、マスター」

「頼みましたよ。
……ツバサ。さぁ、こっちに来なさい」

ノゾミさんの返事を聞いたシュウさんは俺にもう一度声を掛けると、見えない筈なのに真っ直ぐにこちらを貫くように見つめてくる。
その何とも言えない威圧感に逆らえなくて、俺はゆっくりとベンチから立ち上がった。そして、歩み出したシュウさんの後に、重い足取りで付いて行くのだった。