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「ーーお姉ちゃん!見て、出来たよ〜!」

「!……まあ。本当、上手に出来たわね!」

子供に声を掛けられて、私はハッと我に返った。

いけない、いけない。
今はこの時間を大切にしなきゃーー。

今日は自主的に行っているボランティア活動で訪れた孤児院で、中庭に花壇を製作中。
花の名前が書かれた手作りのプレートを持った男の子が、無邪気に笑顔で接してくれて私は心から癒された。

「お姉ちゃん!ここにこの球根植えてもいい?」

「え〜!ここにはこっちのお花咲かせたい!ねっ?お姉ちゃん!こっちのがいいよね〜?」

「え〜!お姉ちゃん!こっちは〜?」

更に、続々と子供達が集まって来て、私に屈託なく話し掛けて来てくれた。
たくさん行っているボランティア活動の中でも、私はこうして子供達と接する事が出来るこの時間が1番好き。

お姉ちゃんーー。

ここでは、私は私で居られる。
"レノアーノ様"とも"女神様"とも呼ばれず、お化粧も必要ない身軽な服装で、泥だらけになってもみんな一緒に笑ってくれるから……。


昔は、早く大人になりたかった。
早く大人になって、自分で何でも出来るようになって、1人で何処でも自由に行けるようになりたかった。
けど、現実は逆で……。大人になる程窮屈で自由がなくなる事を、私は今、改めて実感している。

私に求婚してくれた、ドルゴア王国の第一王子サリウス様。国王様の右腕として働き、自国で民からたくさんの支持を受けているとの噂。
あんなにも身分が高く立派な方が声を掛けて下さったのだから、本当は心から喜ぶべきなのだろう。お父様の為にも、まだ幼い弟レオの為にも……。
レオはヴィンセントお父様とミネアお母様との間に生まれた、今年9歳になる正当なアッシュトゥーナ家の跡取り。異父姉弟で、私と半分しか血の繋がりのない事を知りながらも姉と慕ってくれる、心優しくて可愛い大切な弟。
実の父親以上に可愛がってここまで大切に育てて下さった、お父様。そして、これから成長していずれお父様の跡を継ぐレオの為に……。いや、この国の未来の為にも、ドルゴア王国との繋がりは大切にするべきだ。

もしも、私がこの求婚を拒んだらどうなる?……。

ーーううん。
そんな事、出来る筈がない。

そう分かりながらも、ポケットに入れているポケ電が震えるのをいつも心待ちにしている私が居た。