「そういえば、もうすぐ最終的な進路相談あるわね?ツバサは本当に進学でいいの?」

「いいよ。まだ特にやりたい事もないから、大学で勉強しながらゆっくり見付けて行こうと思う。
……あ、それとも早く就職してほしい?」

「全然!……。
ツバサには、ずっと子供のままでいて欲しい……くらいよ?」

朝食中の何気ない会話。
普通の親子の会話であるようで、ないような不思議な雰囲気が流れる。

察して目を向けると、さっきまで明るい笑顔だった母さんの表情が、曇り始めていた。

ーーお願いだから、そんな表情しないで?

「安心しなよ。俺は例え就職しても、この家に残るから」

「っ……本当?」

「本当。
先生も言ってただろ?俺、成績優秀だからどんな職業でも選べるって。
高給取りで、休暇もちゃんとした職について、母さんを一生楽させてやるよ!」

俺は、父さんのようにはならない。
ずっと母さんの傍に居て、安心させてあげるよーー。

俺がそう言うと、母さんに笑顔が戻った。

「……ありがとう。
ツバサが居てくれて、本当に良かった」

「よせよ、恥ずかしい……。息子なんだから当たり前だろ?」

そう口から出た言葉は、嘘じゃなくて本心。
でも、俺の言葉に瞳を輝かせて、本当に嬉しそうにしている母さんを上手く直視出来ない。
朝食の最後の一口を口に入れると、コップに注いであった牛乳を一気に飲み干して、隣の椅子に置いていた鞄を掴んで玄関へ向かう。

「じゃ、そろそろ行くわ」

「気を付けてね?
あ、今日はバイト……」

「ないよ。
だから今日は、学校終わったらすぐ帰ってくる」

靴を履いて振り返ると、俺の言葉にまた嬉しそうに微笑む母さんが居た。

「分かったわ。
じゃあ、夕飯作って待ってる」

「楽しみにしてるよ。……いってきます」

「行ってらっしゃい」

親子、というよりまるで新婚の夫婦のようなやり取りをして俺は家を出た。