「《ん?君、なんか顔色悪くない?もしかして、具合が悪いとか?》」

「!っ、ぁ……」

ボーッとしているのが気になったのか、少年は腕を放すと掌を俺の額にピタッと当てて首を傾げた。いつの間にか左目の痛みは無くなっていたが、さっきかいた冷や汗がこめかみを伝う様子が気になったのだろう。

「《あ、そっか。えーと……》
ダイジョブ、かな?キュウにウデ、ツカンデ……ごめ、……」

「あ、……《こちらこそ、ボーッとしてごめんなさい。急に腕を掴まれて、少し驚いただけです》」

「《!……君、ドルゴア語分かるの?!》」

「《昔勉強したので、一応……》」

こっちの言葉を話し辛そうだったのを見て俺がドルゴア語で対応すると、少年はパッと嬉しそうな笑顔になった。
俺は思わずドキッとする。その歯をニッと見せて微笑う明るい表情を見ると、さっき彼から感じた"負の感情"は間違いだったのではないか?と思う。

「《良かった!何とか一人で港街(ここ)まで来たけど、迷っちゃったんだよね。
あのさ、良かったらこの場所まで案内してくれない?》」

少年はハイテンションのままそう言うと、(ふところ)から何やら紙を出して渡してきた。

7月15日、港街中央広場の噴水前に13時ーー。

内容を確認して視線を戻すと、少年は自分の顔面前で両手を合わせて"ダメ?"と尋ねるように首を横に傾げる。
そんな彼を見たら、不思議と俺はフッと微笑ってた。

「《いいですよ。ご案内します》」

「《!……ありがとう!恩にきるよ〜!》」

普段なら初対面の人に絶対に和んだりしないのに、少年の明るい雰囲気に流されたのかも知れない。
この1週間程ずっとモヤモヤしていた筈なのに、彼と過ごす時間、俺は何故か穏やかな気持ちで居られた。

……
…………この時はまだ、知らなかった。
この少年と、この日を境に長い付き合いになる事を……俺は、まだ知らなかったんだ。