でも、その"何か"は視える訳じゃない。ただ、感じる。
怒り?怖い?悲しい?
いや、哀しいーー?

……そう。
一言で言えばそれは"負の感情"、……。


「ーーあっれ?
もしかし……なくても、キミ、オトコノコ、だよね?」

「!っ、……」

カタコトで問い掛けられて、ハッとした。顔を上げると、俺の腕を掴んだ人物と視線が重なる。

!!っ、……白金色の瞳に、漆黒の瞳ーー?

見た瞬間、衝撃が走った。
そこに居たのは、黒髪に小麦色の肌をした自分と同じ年くらいの少年だった。
頭にはターバンを巻き、服装は白地のマキシ丈でブカっとしたワンピースのような……。そう。それは確か、ドルゴア地方での服装。
けれど、それよりも俺が気になったのは少年の目。右目が漆黒で、左目が白金の 虹彩異色症(オッドアイ)。それは、自分とは左右逆の瞳を持つ少年だったから……。

「《あれ〜?おっかしいなぁ〜。男の子に反応しちゃうなんて、ボクの美人レーダーも狂ってきちゃった??》」

少年は俺に分からないと思っているのか、ドルゴア語でそう言いながら首を傾げている。俺はそんな少年を呆然と見つめてしまっていた。

だって、まるで自分と目の前の彼は、
"互いの左右の瞳を間違えて生まれて来てしまったのではないかーー?"
そう思う程の偶然だ。

俺は"もしも自分の左目が漆黒ではなく白金だったら"、と幼い頃から思わずにはいられなかった。

ーー希血を持つ者は、漆黒の容姿を受け継がない。
その法則が破られた時、その者は更なる能力(ちから)を発揮するであろうーー

それは、俺の父さんの一族に(まつ)わる言い伝え。
漆黒の(この)瞳のせいで度重なる不思議な現象に悩まされて、逃げ出したくなる事が多々あったから……。
幼い頃は何度も、何度も泣いて……。その度に父さんが言ってくれた。『お前がその瞳を持って生まれて来たのには、絶対に何か意味があるんだ』って。
大好きな父さんにそう言われて、この18年間付き合ってきた漆黒の瞳。

……けど。やっぱり、普通に憧れてしまうーー。

思わず、少年の白金色の瞳が羨ましくてガン見してしまっていた。……すると、…………。