「……」 忙しかった。 でも、すごく楽しかった。 我ながら驚いたのは、元婚約者を一度も思い出さなかった事だ。別に好意を持っていたわけじゃないけど、節度をもって付き合っていくうちに互いに愛し合えるようになると期待していた。それなのに、あんな酷い言葉で婚約を破棄されたのだ。 あんなヤツ、関係が切れてよかったんだ。 素直にそう思えた。 「物思いに耽っているところ悪いが、逆だ」 「?」 ふいに声をかけられた。 手すりによりかかったまま後ろを向くと、バスィーム王子が佇んでいる。