とりあえず雪を凌ぐ場所は見つけた。
 ファイサルを配管脇の段差に座らせて、分厚い外套を開く。ここに来るまで、こんな毛と革でできた外套を見た事がなかった。多少、極寒から身を守れるのだから大したものだ。


「よかった。急所は外れているわ」

「痛い……」

「しっかりして! 急所は外れてるんだってば!」


情けない。戦艦を下りるわけだ。
この男は顔も体も見栄えがいいだけで、男の闘いには向いていない。

そのとき鼠が立てるには派手すぎる物音がした。私はファイサルの口を塞いだ。騒がれたらたまらない。音のしたほうで影が動いた。追っ手だとしても、ファイサルを庇いながら平民と闘うくらいどうという事はないが……

出てきたのは、背の低い女。
雪を避けるための、頭まですっぽり隠れる外套を着ていて、はじめは子供と区別がつかなかった。向こうから口を開いて、女だとわかった。


「〝私は医学生です。この上に住んでいます。襲われたのを見ました。手当てが必要です。これを使ってください〟」